ALTAY TRIP<11> 皆既日食
それは、一刻一刻と確実に近づいてきていた。
皆既日食。<太陽>と<月>と<地球>が一直線上に重なる瞬間。
わざわざ時計を見なくてもわかる。
なぜならば、徐々にいろいろなものが浮き足立ち、ざわめき出しているからだ。
さっきまで軽やかに吹いていた風が、妙に湿り気を帯びている。
山がザワザワと音を立て始めている。
所在なくウロウロと行ったり来たりする人々。
木陰で寝ていた馬の一団も、いつの間にかどこかに行ってしまった。
確実に、太陽の領域に月が侵入しつつあるのが分かる。
僕たちも、その巨大な二つの天体が生み出す引力のバランスに、すっかり翻弄されていた。せっかくのアルタイの大自然だから最高のポイントで日食を見ようと、会場から少し離れた谷間にある美しい河原で、最初はその時を待っていた。しかし、徐々に時がすすむにつれ、違和感が体の内側からムズムズと湧いてきた。こんな最高のロケーションで見る日食は最高だ、と何度も自分に言い聞かせながらも、そうではないどこかを心が探し始めていた。
何が体を動かしているのか分からない。
ただ、動物的本能としか言えない力に全身を操られて、僕たちはその美しい河原を後にしていた。
キャンプサイトをゆっくりと歩くと、テントの前で日食メガネをかけて歓声をあげるグループと出会った。

一緒に太陽の方向を仰ぐと、確かに少し欠けたオレンジの丸がくっきりと見える。
いよいよ日食のスタートだ。
しかし、しばらく観察すると、その丸はときおり厚い雲に隠されている。
昼までは快晴だった空いちめんが雲でびっしり覆われている。
心配だ。
歩みは自然とメインフロアを目指していた。
メインフロアで見る日食は、99年のハンガリー以来だ。
ロシア人やアルタイの人達と一緒に見る日食も面白いかもしれない。そんな思いがむくむくとわいてきた。
ヨーロッパやアメリカのビッグフェスとは比べられない、手作り感溢れる、しかしある程度ボリュームもあるメインステージには、300人位の人が集まっていた。さっきまで踊っていたふうの若者達は、上半身裸で地面に座っている。
意外と静か……。そう、いつもの日食フェスの様相とは違う、神妙な空気が漂っているのだ。

依然として、太陽は雲から出てこない。
大きな撮影機材を抱えたチームは、そんな太陽には糸目も振らず、設営に執心している。スタッフも、ここぞとばかりのタイミングでデコレーションの修復をしている。
時折誰かが「Oh!」と声をあげると、いっせいに空を皆で仰ぐ。そんな繰り返しが何度も繰り返された。

歓声がひとしお高くなった。
ちらりと雲間から覗いた日食は、もう皆既寸前。
会場にいる誰もが、そのわずかな三日月状の光が再び雲に隠されないようにと祈った。
その時、
ふと、
人々の表情から不安が消え、悦楽の顔にかわった。
アルタイの空の上で、小さく小さく縮んだ光は、一拍おいたあとにツーっと円を描いて輪になった。
思いのほか大きく、コロナも均等な美しい皆既日食が、モーヴ色の空にぽっかりと浮かんだ。
その姿は、この地球の中心アルタイにふさわしい、見事なものだった。
西側の山の稜線がしだいに明るくなっていくのが見えた。
それまでは、どよめきだった人々の姿も次第に見えてきた。
抱き合う人、泣いている人、笑う人。
それぞれにこの瞬間を消化していた。
それぞれに理由もあるだろうが、この瞬間ここに集ってきた人々と、なにか確実に共有できる感覚を覚えた。
ああ、今回の皆既日食も素晴らしかった、
そろそろ終わり、2度目のダイヤモンドリングか……という瞬間、いみじくも太陽は雲の裏側に隠されてしまった。
ええっ? と一同が思ったと同時に、
フワッと一瞬、雲が光って、数秒後、ふたたび僕たちは日常にいた。

皆既日食。<太陽>と<月>と<地球>が一直線上に重なる瞬間。
わざわざ時計を見なくてもわかる。
なぜならば、徐々にいろいろなものが浮き足立ち、ざわめき出しているからだ。
さっきまで軽やかに吹いていた風が、妙に湿り気を帯びている。
山がザワザワと音を立て始めている。
所在なくウロウロと行ったり来たりする人々。
木陰で寝ていた馬の一団も、いつの間にかどこかに行ってしまった。
確実に、太陽の領域に月が侵入しつつあるのが分かる。
僕たちも、その巨大な二つの天体が生み出す引力のバランスに、すっかり翻弄されていた。せっかくのアルタイの大自然だから最高のポイントで日食を見ようと、会場から少し離れた谷間にある美しい河原で、最初はその時を待っていた。しかし、徐々に時がすすむにつれ、違和感が体の内側からムズムズと湧いてきた。こんな最高のロケーションで見る日食は最高だ、と何度も自分に言い聞かせながらも、そうではないどこかを心が探し始めていた。
何が体を動かしているのか分からない。
ただ、動物的本能としか言えない力に全身を操られて、僕たちはその美しい河原を後にしていた。
キャンプサイトをゆっくりと歩くと、テントの前で日食メガネをかけて歓声をあげるグループと出会った。

一緒に太陽の方向を仰ぐと、確かに少し欠けたオレンジの丸がくっきりと見える。
いよいよ日食のスタートだ。
しかし、しばらく観察すると、その丸はときおり厚い雲に隠されている。
昼までは快晴だった空いちめんが雲でびっしり覆われている。
心配だ。
歩みは自然とメインフロアを目指していた。
メインフロアで見る日食は、99年のハンガリー以来だ。
ロシア人やアルタイの人達と一緒に見る日食も面白いかもしれない。そんな思いがむくむくとわいてきた。
ヨーロッパやアメリカのビッグフェスとは比べられない、手作り感溢れる、しかしある程度ボリュームもあるメインステージには、300人位の人が集まっていた。さっきまで踊っていたふうの若者達は、上半身裸で地面に座っている。
意外と静か……。そう、いつもの日食フェスの様相とは違う、神妙な空気が漂っているのだ。

依然として、太陽は雲から出てこない。
大きな撮影機材を抱えたチームは、そんな太陽には糸目も振らず、設営に執心している。スタッフも、ここぞとばかりのタイミングでデコレーションの修復をしている。
時折誰かが「Oh!」と声をあげると、いっせいに空を皆で仰ぐ。そんな繰り返しが何度も繰り返された。

歓声がひとしお高くなった。
ちらりと雲間から覗いた日食は、もう皆既寸前。
会場にいる誰もが、そのわずかな三日月状の光が再び雲に隠されないようにと祈った。
その時、
ふと、
人々の表情から不安が消え、悦楽の顔にかわった。
アルタイの空の上で、小さく小さく縮んだ光は、一拍おいたあとにツーっと円を描いて輪になった。
思いのほか大きく、コロナも均等な美しい皆既日食が、モーヴ色の空にぽっかりと浮かんだ。
その姿は、この地球の中心アルタイにふさわしい、見事なものだった。
西側の山の稜線がしだいに明るくなっていくのが見えた。
それまでは、どよめきだった人々の姿も次第に見えてきた。
抱き合う人、泣いている人、笑う人。
それぞれにこの瞬間を消化していた。
それぞれに理由もあるだろうが、この瞬間ここに集ってきた人々と、なにか確実に共有できる感覚を覚えた。
ああ、今回の皆既日食も素晴らしかった、
そろそろ終わり、2度目のダイヤモンドリングか……という瞬間、いみじくも太陽は雲の裏側に隠されてしまった。
ええっ? と一同が思ったと同時に、
フワッと一瞬、雲が光って、数秒後、ふたたび僕たちは日常にいた。






